m_____m___mmのブログ

美容系かもしれない

もうすぐバレンタインですね。階段から突き落とされた話でもしましょうか。

「転校生のKくんです」

中学1年生の夏、私のクラスに転校生がやってきた。彼はイギリスからの帰国子女。高い背丈にユーモア満載な話、気さくな性格から瞬く間に彼はいろんな人に好かれた。顔立ちもそこそこ良かったため、懸想する方もちょくちょく…。私と彼は苗字がかなり似ていることから謎にセットとして扱われ、実際も仲良くしていた。
彼はなかなかに頭が切れる子で、おもしろい二面性も持ち合わせていた。…私しか知らない面だったようだけど。

「うち、Kが好きなの」

そう私に告げてきたのはTさん。彼女はハーフでそこそこ可愛らしい子だったが、頭の出来が非常に残念でよくトラブルを起こすことでも有名だった。
彼女がKくんのことが好きなのはバレバレだったが、私は知らなかったよ、と驚いたフリをして話の続きを促した。


「だから、協力してほしい」
「恋のキューピットになれってこと?」
「うん、あと、あまり仲良くしないでほしい」

なんとまあ図々しい要求だ、と思ったのはおくびにも出さずに私は淡々と答える。


「Kが私の事好きになっちゃうとか思ってるならそれは違うよ」
嫉妬するからやめてほしい」
「じゃあ協力も何もできないよ?距離置いたら何もわかんないじゃん」

この後も詭弁を並べて彼女を丸め込んだ私は、人の悪い笑みを浮かべながらこれからの作戦を練っていた。

先ほども言った通り、彼女の好意の先はバレバレ。それはKくん本人も知るところであった。


「お前、俺の友達辞めるの?」
「んなわけないじゃん、君はあの子好きじゃないでしょうに」
「大っ嫌いだね。頭の悪い女は面倒臭い」

そう、これが彼の裏の顔。別に学業ができない人を馬鹿にするわけではなかったが、「君主危うきに近寄らず」。面倒事は避けたい。


「じゃあ私のことは大好きだね」
ご名答


そんな日常のやりとりをした我々は同じような悪い笑みを浮かべていたのでした。

「いつまで遊んでんの」

彼女に協力するフリをすること数ヶ月、私が巻き込まれて遊びに行くことが数回あり、正直いつまで彼女で遊ぶつもりだ、と口を尖らせていた。


「そこまで暇じゃないよ〜」
「こないだサシでに誘われた」
「えッッやば!こわ!!」
「もちろん断った
「油断してると上乗っかられちゃうよww」
「そろそろ潮時か…」


ようやくこのお遊びが終わることにホッとしたその週のバレンタイン、私は彼女に呼び出された。

放課後、階段の踊り場で。

「告白したけど振られちゃった」
「え、マジか…残念やな…」


彼女は泣きそうな顔で俯いているように見えた


「家に誘った時、なんて断られたと思う?」


話題の切り替えがおかしかったことに私は違和感を覚えたが、答える。


「え?…まあ普通にごめんとか?」
「……あんたがいないなら行かないだって」


うわ…やってんなあ…と思い、あとで彼をどうしようか考えていた。


告白も…」


蚊の鳴くような声で彼女は続けた。


「他に好きな人がいるからごめん、って……」


うーわ、これはリンチコースだ私だと思われたら大変じゃないか。余計なトラブルには巻き込まれたくないのに…と考えていた私の背中に、真冬の夕暮れ時には似合わないが一筋、伝っていた。

私の背には階段が、目の前には彼女がいた。

あー、これはKくんにもついてきて貰えば良かった。

「死ね」

彼女にしてはだいぶ低く、ドスの効いた声が聞こえ、

ドンッ

という衝撃が私の体を突き抜けた。

ふわっ

とした浮遊感が一瞬。

次の衝撃に身を硬らせた私はきっと今までで一番間抜けな顔をしていた自信がある。

私の体は簡単にを舞い、階段へ真っ逆さまに落ちていった。

嫌な予感がした、と後で笑っていたKくんが颯爽と現れ、私を奇跡的にキャッチした、というわけでもなく。

ゴッガッ

と鈍い音が、静かな冬の夕暮れに不釣り合いな不愉快さを響かせていた。

「あっぶね」

全身を強かにぶつけて、そのまま痛みに呻いているはずの私は、そう独り言を漏らし、ゆっくりと起き上がった。奇跡的にこの時期の体育の授業は柔道。つまり受け身をとっていた。

「えー、こんなことするのー、怖ーい!」

滅茶苦茶な棒読みで、ゆらゆらと立ち上がった私は、彼女を視界に入れた途端、猛スピードで階段を駆け上がった。自分でも怖い。

「ねえねえ、Kは最初からお前なんて嫌いだったんだよ?」

ニヤニヤと迫る私は、彼女にとって恐怖以外の何物でもなかっただろう。

「べ、勉強できるからって、ちょっと名前似てるからって、調子乗ったあんたが悪い!!!」

彼女の悲痛な叫び声が、踊り場に反響した。肩を震わせた私は、そっと彼女に近寄り、

「は?お前が私に体重以外で勝てるわけないだろ、豚が」

そう、彼女の耳に言葉を吹き込んだ私は自分の教室に向かい、そして下校した。
後には彼女の、泣き声が残るのみだった。

「すまなかった…」

数日後、Kくんは謝罪と共に可愛らしい洋菓子の入った袋を私に差し出した。

「まさかこんなことになるとは…ごめん」
「ほんとだよまったく」
「これでお許し願えないだろうか……」
「ふーん……面白い冗談だ、仕方がない、許そう」

終始ニヤニヤしっぱなしで、笑いを含ませた我々のやりとりは、どこか滑稽なものだっただろう。

なんてったって今日はホワイトデーだからね

 

あ、そういえばもうすぐバレンタインだから、みんなも気をつけてね。